蒼夏の螺旋

   “仕事始めに”
 


今年は三が日が土日へかぶったせいで、
仕事始めがきっちり月曜。
しかもまず最初の土日が一番遠いときて、

 「仕事納めは土日に引っ掛からなかったから、
  余計に短かったお正月だったのにぃ。」

他はどうだか知らないが、
ウチの、しかも企画部は、
暦を先取りしての前倒しというお仕事なせいか。
二月や春休みの企画に向けて、
すでに始動しているプランがいろいろというこの時期に、
有給取って十日ほど海外へなんて優雅な過ごし方なぞ、
そうそう許されそうになく。
それでも今日くらいはと、晴れ着姿で出社したお嬢さんたちが
職場に華を添えてたそうで。
電話を取るのに 袂をちょいと引いて引っ掛からないようにする所作だとか、
和装に合わせて髪を結い上げたことで
あらわになってる白いうなじなんかがチョーかわいいと、
日頃は軽口叩き合ってる男性陣が 少なからず見直したらしいという
職場あるあるなお土産話を抱え、
企画部でうら若き係長というリーダー格の役付きの座にある、
ロロノア・ゾロ氏が、鼻歌混じりの帰宅の途に着いており。
そういう忙しすぎる職場でありながら
クリスマスも年の瀬も、何とか時間をやりくりし、
出先での待ち合わせなど離れ業を駆使して、
焼き肉バイキングや大晦日の投げ売り海鮮丼など、
こちらも情報通ならではな目玉グルメを山ほど都合して差し上げたし。
正月は正月で、お取り寄せした特製おせち、
熟成肉のローストビーフだの、鴨肉のステーキだのが満載のご馳走などなど、
食いしん坊さんへ惜しみなく提供した凄腕のご亭主。
仕事にばっかり脇目も振らずというのではなくて、
腕白に見せて実は…微妙にぼっちが嫌いな寂しがり屋でもある奥方なのを
ちゃんと把握している出来る旦那様だけに、

 “五日ほど一緒にいたから、急に仕事ってのはつまらないかもだよな。”

連絡だけならどこに居たってネットでできるのでと、
年末年始はずっとルフィ奥さんと二人で過ごした。
年末はタブレットで時々紅白を観つつ、
知り合いの住職さんから頼まれたのでと
少し場末の静かなお寺さんへ足を運び、
力自慢の奥方と二人がかりで除夜の鐘を撞いて。
用意していただいた祈祷つきの年越しそばを手繰ると、
元旦は自宅で丼仕様のお雑煮を食べ食べまったり過ごし。
午後から初詣に近所の神社へお出かけして、
そこにいた顔見知りの小学生たちとバドミントンして小汗をかいて。
2日目は馴染みの大型スーパーで初売りだというのへ付き合って、
年末に山ほど買い込んだはずなのが嘘みたいに、
隙間の目立つ中身となってた冷蔵庫の補充に勤しんだ。

 『変だなぁ。
  大みそかからこっち、特に動き回ってもなかったのにな。』

大掃除も早めに済ましたし、
ゾロと遊ぶぞって構えこそしたけど、自転車での遠乗りとかしたわけでもなし、
なのに何でか食が進んでしょうがねくてさと。
本気で不思議か小首を傾げまくってた奥様なのへ、

 『…まあ、早起きする必要がないからって、
  結構 夜中じゅう泳いだからな。』

 『? 泳ぐ? ……あ。//////////』

夜通し流れていた音楽のライブも、お笑いの芸人さん大集合も、
知らない顔ぶれが出てくると関心も薄れて、
その代わりのようにお互いへのちょっかい掛けについつい気が逸れる。
肩に回した手で、向こう側からちょいちょいと頬をつついてみたり、
それへのお返しだ〜と、懐へお元気にタックルを仕掛けたり。
そんなじゃれ付き合いを幾度か繰り返しておれば。
夜中だということも重なって、
ぎゅうという無邪気なハグが なまめかしい抱っこへスライドしもし。
新婚さんならではな展開へなだれ込みもしたらしく。

 『外でそんな話持ち出すなよな。/////////』

真っ赤っ赤になった腕白さんからあかんべをされたのが
愛しくてしょうがなかったなぁと、
柄にない思い出し笑いをしつつ。
自宅であるマンションまで、ちょっと早い目のご帰宅となったご亭主様。
途中の乗換駅でいつもの帰るコールを掛けたところ、
晩ご飯は鍋でいいよなと、軽快なお声が返って来て。
まだまだ松の内のあいだではあるけれど、 
奥方の方でも通常運転へ戻っておいでみたいだななんて
苦笑交じりに帰ってきたところ…

 「お。おっ帰りだぞ、ゾロvv」

蘭菊が躍る友禅の染も麗しい、
長い長いその袂を、
ひょいとからげた手元でぶんぶんと回し。
玄関までを駆けて来た振り袖姿の奥方で。

 「え?え?//////////」

職場のお嬢さんたちのおめかしは、微笑ましいなぁで済んだそれ。
だというに、
こちらの腕白さんが、襟元重ねたところから白と赤の半襟覗かせ、
緋色の上へ秋の菊だの扇面だのが乱れ飛ぶ豪華な柄の振り袖姿、
金襴も豪奢な帯で締め上げて、まとっておわすまま、駆けてきたりされた日にゃ。

 「な、ど…何だそのカッコわ。////////」
 「ゾロ、どっかの女子高生みたいな言葉遣いになってるぞ。」

剣道の元学生チャンプがなんてこと、
真っ赤になってのしどろもどろという体たらくなのが、
無邪気な奥方には面白くてたまらぬらしく。

 「ああ、これ?
  隣りの小野寺さんに着せてもらったvv」

子供会の新年会で何か仮装しようってことになってさ。
大人なんだから本格的なのしなきゃって思って、

 「こういうカッコはどうだろかって、
  試しに着てみたんだけど…って、ゾロ、熱出たか?」

結構 陽に焼けてる印象のあるお顔がそれと判るくらいに真っ赤に染まり、
どんなにお酒を飲んでもこうはならないのに、
まさか熱でも出たかと奥方が本気で案じた旦那様。
意外なところが ツボというか弱みというかだったとはと、
ルフィさん本人が気づくのは、ちょっとばかり後日のことだったそうで。
こいつは春から、
やっぱりラブラブなご夫婦だったようでございますvv




    〜Fine〜  16.01.04.


 *記録的に暖かいお正月だったそうで、
  花見のころの気温だったそうですね。
  わたくしめは残念ながらほとんど家の中にいたので、
  あんまり実感はありませんが。(とほほん)

  何のこっちゃなお話ですいません。
  ショートカットで小柄な奥方、
  子供会ではお母さんたちの間でアイドルだったりしてねvv
  振り袖なんかどうかしら、そうね可愛いわよきっとと
  乗せられたそのまま、着てみたらしいです。(笑)

ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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